当たり前のことですが、現地調査を行わせていただいたすべてのお客様からご成約いただけるわけではありません。
外壁塗装や屋根塗装を考えているお客様は、ご予算や工期など様々な条件を元にじっくり検討し、工事を依頼する業者を決めているからです。
そんな中で、過去に何度か以下のような相談をされたことがあります。
弊社では「足場なしの塗装工事」は基本的におこなっておりません
※高所作業車での作業が可能な箇所や、落下防止の手すりやパラペットがある屋上の工事、傾斜のない平らな屋根(陸屋根・平屋根)の工事は足場設置の義務がないため、「基本的に」という表記にさせていただいてます。
大変申し訳ございませんが、上の赤文字の注釈にあるような特別な場合を除いて、中村塗装では足場なしの外壁塗装工事や屋根塗装工事はおこなっておりません!
なぜ「足場なし塗装工事」をおこなわないのか?
足場代ってけっこうかかるでしょ?
足場代がなくなれば、工事費が安くなってお客さんも喜ぶし、今まで以上に工事契約が取れるようになって中村塗装さんも助かるんじゃないの?
上記のようなご意見をいただいたことがありますが、ハッキリと結論から言わせていただきます。
人命を守ることが第一です!
もちろん工事費を安く抑えられるに越したことはありません。
しかし、そのために「安全」を犠牲にすることは許されません。
足場の役割について
そもそも足場にはどのような役割があるのでしょうか?
足場の役割① 安定した作業床となる
しっかりとした足場が組まれることにより、安定した作業床となります。
ある程度の高さまでは脚立でもなんとか届きますが、脚立を設置する場所によっては安定さを欠きますし、塗料や道具を持って脚立に上ると意外と安定しません。
私達職人は、安定した足場の上でないと十分な塗装技術を発揮できません。
足場がグラグラと不安定だったりすると、落ちないようにという意識が1番に働いてしまうので塗装に集中できず、また力が入らなかったり逆に力みすぎたりと、何も良いことがありません。
足場の役割② 安全確保
安定して作業ができるということは、安全な移動ができるということです。
また、万が一転倒しても、安全帯のフックをかける場所・掴まる場所が多く、飛散防止用のネットが墜落防止ネットとしても機能します。
足場の役割③ 飛散防止
外壁や屋根を囲う足場があることでネットを張ることが可能となり、高圧洗浄時の水しぶきの飛散や塗料の飛散、粉塵の飛散を防止することができます。
足場なし工事の危険性
厚生労働省が公開している「職場のあんぜんサイト」というホームページで、実際の労働災害事例を検索して閲覧することができます。
以下、塗装と足場にまつわる労働災害事例をピックアップ掲載し、リンクより該当ページに飛べるようにしてますので、もっと詳しく知りたい!という方は「厚生労働省 職場のあんぜんサイト」より検索してご確認ください。
厚生労働省のあんぜんサイトで「建設業」「墜落・転落」「塗装」で調べると、21件の結果が表示されました(2022年11月25日現在)。
労働災害事故は企業のマイナスイメージになるので、些細な事故であれば報告されないケースも多く、実際の数はもっと多いと考えられます。
足場なしの工事がこんなにも怖いことだなんて……
死亡事故まで起こってるのね。
もしも工事中に労働災害事故が起こったら?
外壁や屋根の塗装工事中、万が一労働災害事故が起こってしまった場合、お客様にとっては一生の1度、2度目はあるかないかの大きな買い物であるにも関わらず、塗装工事どころではなくなってしまいます。
ではここで、外壁塗装工事中に労働災害事故が起こってしまった場合の流れを記したいと思います。
① 被災者の治療対応
当然ですが、被災者の治療が最優先です。
重大災害であれば救急車の出動要請をおこないます。軽傷であれば自分達で病院に連れていく方が早い場合もありますが、墜落や転落ではどこをどう打っているかわからないため、救急車を呼んで対応する方が安全でしょう。
② 諸機関に連絡
救急車を待っている間や搬送中、治療中など、手が空いた瞬間に会社・警察・労働基準監督署など、関係する諸機関に連絡をし、その後の処置について指示を仰ぐ必要があります。
※これも当然のことですが、俗に「労災隠し」と呼ばれる行為は違法です。
労働災害の治療費は、労災保険から支払われます。通常の私傷病による治療とは違い、健康保険証が使えません。
・労災指定病院等で治療を受けた場合
治療費は病院から労働基準監督署に請求。患者は支払いの必要なし。
・やむを得ず労災指定病院等以外で治療を受けた場合
治療費は一旦患者が立て替える。後日、その費用が現金で患者に支給される。
③ 労災事故の詳しい調査
警察や労働基準監督署による事故の詳細や事実関係などの詳細な調査が行われます。
調査が完了するまでは災害現場の保存に努めなければならないため、工事はすべて中断されます。
④ 調査結果による今後の判断
墜落や転落について可能な限りの対策が講じられていた場合などの、企業に重大な過失がない場合は「再発防止策」を講じた上で工事の再開が可能です。
※お客様の心証を悪くするのは間違いないので、企業側は契約解消される可能性もあります。
※お客様から「足場なしで」という旨の依頼があり、双方同意の上で工事が行われた場合、責任は受け入れた企業側に発生しますが、お客様も企業側に一方的に責任を問うことはできません。
しかし安全対策が講じられていなかった場合、企業は安全配慮義務違反に問われ、営業停止などの処罰対象となります。
この場合、完全に工事が停止してしまうので、別の塗装業者に引継ぎ依頼をするなどの必要性がでてきます。
あってはいけないことですが、毎年全国各地で塗装工事中の労働災害事故が起こっています。
事故など、「何もないこと」を考えるのは簡単ですが、私達塗装業者には「万が一の可能性」を考える責任があり、「万が一の事態を防ぐための対策」を考え、実行する義務があります。
足場なし工事に対する法的視点
大前提として、そもそも使用者には「安全配慮義務」があります。
<安全配慮義務の根拠>
労働契約法第5条
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」
労働安全衛生法第3条第1項
「事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。」
など
<安全配慮義務違反となる例>
- 危険な場所(設備や備品)が存在しているにも関わらず、安全対策をすることがなかった結果、労働者が怪我をした場合。⇒工事に際して足場を立てないなど
- 労働者に定期的な健康診断(年1度)を実施せず、健康を害した場合。
- 長時間労働により労働者が精神疾患や身体疾患を発症した場合。
- 長時間労働が常態化しており、これに対する対策を講じず、労働者が精神疾患や身体疾患を発症した場合。
- 適切なハラスメント予防策を講じていない、もしくは、ハラスメント発生後に適切な対応をせず、労働者が心身の健康を害した場合。
など
また、建設現場での労働災害事故は頻発しているため、労働安全衛生規則などでも詳しく定められています。
<労働安全衛生規則>
第一節 墜落等による危険の防止
(作業床の設置等)
第518条 事業者は、高さが二メートル以上の箇所(作業床の端、開口部等を除く。)で作業を行なう場合において墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、足場を組み立てる等の方法により作業床を設けなければならない。
2 事業者は、前項の規定により作業床を設けることが困難なときは、防網を張り、労働者に要求性能墜落制止用器具を使用させる等墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない。
(開口部等の囲い等)
第519条 事業者は、高さが二メートル以上の作業床の端、開口部等で墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのある箇所には、囲い、手すり、覆い等(以下この条において「囲い等」という。)を設けなければならない。
2 事業者は、前項の規定により、囲い等を設けることが著しく困難なとき又は作業の必要上臨時に囲い等を取りはずすときは、防網を張り、労働者に要求性能墜落制止用器具を使用させる等墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない。
(要求性能墜落制止用器具の使用)
第520条 労働者は、第518条第2項及び前条第2項の場合において、要求性能墜落制止用器具等の使用を命じられたときは、これを使用しなければならない。
(要求性能墜落制止用器具等の取付設備等)
第521条 事業者は、高さが二メートル以上の箇所で作業を行う場合において、労働者に要求性能墜落制止用器具等を使用させるときは、要求性能墜落制止用器具等を安全に取り付けるための設備等を設けなければならない。
2 事業者は、労働者に要求性能墜落制止用器具等を使用させるときは、要求性能墜落制止用器具等及びその取付け設備等の異常の有無について、随時点検しなければならない。
簡単にまとめると、高さが2メートル以上ある場所での作業には足場などが必要で、狭すぎるなどの理由で足場が立てれない場合も防網を張るなどして、何かしらの安全対策をしなければならないということです。
また、高所作業をおこなう際には安全のために安全帯やフルハーネスなどの墜落防止用器具を着用しなければならないため、墜落防止用器具のフックをかけるための手すりなども設けなければならないのです。
一般的な2階建ての住宅の場合、屋根の高さは約6~8mになるので、作業をおこなうとなると必ず足場等の措置が必要となります。
平屋建ての住宅の場合でも、外壁のみであればギリギリ脚立でも作業が可能ですが、屋根まで施工するとなると屋根の高さは2mを超えるので、こちらも足場等措置が必要となります。
まとめ
「足場なしでお安く!」という見積もりや提案には注意が必要!
必ず工事中の墜落・転落防止対策を確認してください!
「必ずヘルメットをかぶるんで大丈夫です!」ぐらいの対策は何の役にも立ちません!
ヘルメットは頭部への衝撃を緩和する役割なので、他の部位への衝撃はカバーできません。
途中にも少し書かせていただきましたが、事故など「何もないことを考える」のは誰にだってできます。考えなければいいだけですから^^;
そうではなく、「こういった事故が起こるかもしれない」「こういった事故が頻発している」ということを事前に考え、防ぐための対策を講じること。それが塗装工事を請け負う企業の責任であり義務です。
長い解説にはなってしまいましたが、ここまで書いてきたような内容をすべて踏まえて、弊社では足場なしでの値引きや足場なしでの工事は基本的にお断りさせていただいているのです。
塗装工事を依頼されてキレイに塗装するのは当たり前のことです。
終わりよければすべて良し、ではなく、私達は安全管理や現場管理にも力を入れています。
外壁や屋根の塗装を検討されている皆様、まずは法令順守の中村塗装に相談してみませんか?
塗装は中村塗装さんにお願いしたいんだけど、どうしても予算との兼ね合いが……。
そこで相談なんだけど、1つの業者さんが「足場なしで安く工事する!」って言ってるんだけど、中村塗装さんも足場なしで工事できないかしら?